マラッカ航海日誌補遺

「日付のある紙片」の過去記事。船便のためかなり遅れて届きます。今日のニュースと書いてあっても一ヶ月前の出来事であったり。速達は<a href="http://iscariot.cocolog-nifty.com/kuantan/">日付のある紙片</a>

反捕鯨は「翻訳された白人至上主義」 〔補足〕

これについて。
グリーンピースが調査捕鯨妨害=警告無視し、危険行為−水産庁
いろいろごちゃごちゃ書きすぎてわけがわからなくなったので要点をもう一度。

反捕鯨主義者、反捕鯨運動家たちの反捕鯨、鯨保護の根拠が、「環境保護」だけでないことは疑いない。これはシーシェパードでもグリーンピースでも変わらない。仮にシロナガスクジラやマッコウククジラが増えすぎて生態系に影響を及ぼすほどになったとしても彼らは決してそれらの捕獲、とくに日本人による捕鯨を容認することはない。

つまり彼らが反捕鯨、鯨保護を主張する根拠はひとえに、「鯨は保護に値する種であるから」ということである。

その意味で彼らは、「種」には価値的に保護に値するものとそうでないものがある、すなわち「種には貴賎がある」という思想、あるいは少なくとも思考様式、に拠っている。

結論から言えば、彼らの主張の本来の「動機」、彼らを突き動かしているもの、そして彼らの運動の本質は、「種の貴賎」の思想にあると思われる。

彼らの鯨保護の主張が極めて情緒的で、その叫びがしばしば日本人に対する(ノルウェー人やアイスランド人が俎上に上がることはない)人種差別的な言動と一体になっていることを見るとなおさらそのように推定することが合理的である。

なぜ鯨は(「環境問題」とは無関係に)保護に値するのか、つまりなぜ鯨は「高貴」なのか、この点についても彼らはこれまでさまざまな理由を述べてきた。

鯨が「知能が高い」こと、「社会性をもつ」こと、「感情が豊か」であることなどである。(さらに番外として「痛みを感じることができる」ことなどをあげている馬鹿もいる)。

しかしこれらの「鯨の性質」は彼らの恣意的な「解釈」によって抽出され選択されたものであって、価値中立的なものではない。

またそれらの諸「性質」自体に価値があるという根拠もない。

しかもそれらの諸「性質」は、白人(文明)の諸価値を前提としその色付けを与えられて解釈され構成されたものなのである。

ここにおいて反捕鯨の主張は、白人文明の諸価値を体現するように解釈された「鯨の性質」を「高貴」なものとして称揚することにより、翻って白人文明の諸価値の普遍性を再確認し、白人文明にさらなる価値的なサポートを与える効果をもつ。

このような効果を彼ら反捕鯨活動家自身がまったく自覚していないとも思われない。

よって反捕鯨運動は、そのような効果を意図した白人至上主義運動の一環であると評価するのが妥当であると思われる。

少なくとも彼らの運動が、象徴的に「鯨」に託した「白人至上」の情念の表現であることは否定できないだろう。

すなわち彼らの「反捕鯨」の叫びは、鯨が自然界のブラーマンであるように白人は人間界のブラーマンである、いずれもその「種」としての性質ゆえに「高貴」なのだ、という信念ないし情念の吐露である。
 

もう少し詳しく見ていくと次のようなことである。  

鯨がもつといわれる「知能」「社会性」「感情」という特性がなぜ「高貴性」の根拠になりうるのか。それはいうまでもなく、彼らがそれらの性質を、「人間」の特性、「人間性」の要素でもあると考えるからだろう。鯨は人間性の要素たる諸性質と共通する諸特性を持つから他の動物に優って「高貴」であると彼らは考えるのである。

しかしそのときに彼らは人間性のさまざまな要素の中から、「知能」「社会性」「感情」という特定の諸性質を任意に抽き出してきたのであり、それらの諸性質が人間性を代表するものであるということの根拠は示されていない。それらはいわば思いつきか先入観に基づく選択と言って良い。

さらに彼らは鯨の諸性質からも、彼らの好みの性質を勝手に抽出してくる。そしてそれを鯨の特性であると決め付けるのである。このプロセスはさらに恣意的である。鯨がいかに社会的動物であって彼らがどんなに鯨を愛していようと、彼らが鯨の意見を聞いたわけではない。ほかの動物の意見も聞いて、やっぱり鯨は賢かった、鯨の感情は豊かだったという結論に達したわけでもない。

彼らは単に勝手な解釈によって鯨の特性を抽き出す。もちろん彼らが人間性の特性としてあらかじめ用意しておいた諸性質に相似するような特性を任意に解釈によって引き出してくるのである。

結局、鯨の諸性質が人間の高貴な諸特性に共通するというのは、あらかじめ予定されていた結論であり、その結論につじつまを合わせるような解釈操作をしただけである。

ところがさらに問題なのは、鯨を媒介にしたことによって、鯨によって媒介された人間性の要素たる諸特性はさらに称揚されることになるという現実的な効果である。

彼らが最初に「知能」、「社会性」、「感情」などを人間の特性として選んだこと自体根拠がなかったが、しかしさらに、彼らが人間性に関する任意の解釈によって「知能」「社会性」「感情」などを価値ある特性として引き出す過程において、それらの特性に、彼らの自由勝手な「色付け」がなされている可能性も非常に高い。

たとえば、知能、社会性、感情のうちのどれがより価値があり高貴な人間の特性であるかという問題に対する決定的な答えはないだろう。どれを選んでも根拠はない。しかし、彼らは任意にどれかを優先事項として選択しうるだろう。

現に以前は「鯨は知能が高い」ということが鯨保護の主な理由とされていた。その時代には「知能」こそ人間性の価値ある特性であるという思想が根強かったのである。そして、白人こそ最も知能が高い人種であるという観念も強固だった。(日本人はこのことをあまり知らないように見える。いまでもマレーシアのような後進国では、白人はアジア人より知能が高い、インテリジェントだと本気で信じている人が少なくない)。

その場合の「知能」の解釈、知能とはどういうものかという解釈も、反捕鯨運動家たちの文明的な背景、すなわち白人文明の思想を前提として行われることになる。

社会性や感情についても同じである。「常に平静で何にも動じず、物事を差別せずに見る境地」を理想とする文明においては「感情の豊かなこと」はマイナス評価を受けるだろう。しかし白人文明の思想にはそのような理想は存在せず、「感情が豊かなこと」「感情が動きやすく安っぽいこと」がむしろ人間的であるとみなされて高く評価される。

これらが解釈の過程における「色付け」の例である。

彼らは「人間性の解釈」と「鯨の性質の解釈」との両面において恣意的な解釈を行い、その過程で自らの「隠れた動機」を表現していくのである。

「鯨は痛みを感じることができるから保護に値する」などと本気で主張して活字にしている白人さえいる。反論するのもばかばかしいが、痛みはすべての動物が感じるものである。「苦痛」の問題については前記事に少し詳しく書いた。

もっともっと常識的に考えても、「知能」や「社会性」や「感情」を根拠にその生命の貴賎、保護に値するかどうかを決めてよいというなら、脳に障害があり、知能はもとより感情も鈍磨していて十分な社会性も持てないような障害者の命の価値は、健常者よりも明らかに低いということにならなければならないだろう。

このように彼ら反捕鯨主義者の思想の破綻はどこから見ても明らかだが、捕鯨をめぐる議論の問題は、彼らの荒唐無稽な主張が現に全世界に受け入れられてしまっているという「イデオロギー性」ないしヘゲモニーの問題なのである。
 

  1. 2008/04/07(月) 01:48:44|
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